◎俳句月報  2018・11月号

目次

1. 10月定例句会報

2. 10月句楽吟行 閘門橋と水元公園

3. 俳句の語句の読み方

◎1.定例句会報  2018・10月  於・2018・10・28

入選句

 

白秋や如来弓手(ゆんで)の薬壺        アヒ

桃源と名のつく駅や薄紅葉           シケ

のけぞりて仰ぐ天守や鳥渡る          アヒ

茸山内緒のままに逝きし人           オミ

 (添削 茸山胸に潜めて頓死せし)

人通り絶えて町角十三夜            チシ

歩けよと医師の一言小鳥来る          ミノ

下り簗昼なほ暗し四方の山           シケ

下り簗消防団は刺子着て            イカ

口遊む夕やけ小やけ下り簗           ナミ

 

 

以上、102句投句の中から9句

 

 

次の二句、以前と同巧の句です

 

校門はむかし城門小鳥来る  別の作者の先行句… 校門はかつて城門麦の秋(2017・6月)

※季語を変えても成り立つ、類句を生み永遠に未完成の句となりそうです。

 

一の坂喘ぎ二の坂山紅葉   同じ作者の先行句… 一の坂過ぎて二の坂初紅葉(2017・11月)

※初紅葉で一句は完成するでしょう。 

 

 

 

●動く句が多くあります 

 

足湯して箱根の秋を惜しみけり

 

※箱根でなくとも、三文字の地名に入れ替えても成立しますから前に示したにと同様永遠に未完成の句として類句を生み続けることでしょう。

 

足湯なども他のものに置き換えても成立しそうです。

ここはぴたりと箱根を象徴するものを見つけましょう。

 

このような句が多いことは安易な句作りをしている証拠です

 

今さら採り上げるのもおかしいぐらいですが、この機会に「三猿」について記しておきましょう

 

庚申塚と呼ばれているところでこのような石像を見かけることが多いと思います。庚申信仰が盛んであったころに土地の人たちが建てたものものです。

庚申塔とか青面金剛といわれる下部に描かれているものが三猿です。

 

庚申の夜、村人たちがここに集り、一夜を共に飲み食いをして過ごします。

 

人の腹中に棲んでいるといわれる三尸虫(さんしちょう)が隠している過失をも知り、庚申の夜に人の睡眠中に天に昇り、その罪悪を告げるといわれています。

 

村の入口にあたる場所にこのようなものを据えて寝ずに一夜を明かしていました。そのうち、庚申に縁の深い寺社を訪ねることなども行われ、その一つ柴又の帝釈天もその場所として庚申夜は賑わったと言います。

 

三猿について「ウイキペデア」の解説(一部抜粋)を紹介しましょう。

『論語』に

非礼勿視、非礼勿聴、非礼勿言、非礼勿動

(礼にあらざれば視るなかれ、礼にあらざれば聴くなかれ、礼にあらざれば言うなかれ、礼にあらざれば行うなかれ)という一節がある。

 

一説に、こうした「不見・不聞・不言」の教えが8世紀ごろ、天台宗系の留学僧を経由して日本に伝わったという。

 

三猿のモチーフは、庚申のモチーフ信仰の伝搬とともに近世以降広く用いられるようになり、主尊の青面金剛を描く際、その足元に三猿が添えられた例が多い。また庚申塔にも多く三猿を彫り込まれている。

 

天台宗は比叡山の鎮護社の日吉大社と密接な関係にあり、日吉大社と密接な関係にあり、日吉大社を本尊とし、猿を神使とする山王信仰が、庚申信仰と習合した結果ともいう。

 

以上です。

 

庚申信仰は、民間信仰として広まったものですが、神社仏閣でこの三猿部分を見かけることが多いと思います。この日に生まれた人は大人物か大泥棒になるともいわれ、石川五右衛門、豊臣秀吉、夏目漱石などがこの庚申の日の生れとか。この災厄を逃れる方法も俗説としてあるのはよく知られています。

 

 ついでながら、「非礼勿動(礼にあらざれば行うなかれ)」を表わす「猿」を描いたものは四猿(しざる)ともいうようで、どこかを塞いでいるか、

どこかで見る機会があればよく確かめてみてください。なるほど云うところを抑えています。

 

 

◎2.  今月の句楽吟行 閘門橋と水元公園 於・10・6

作品抄

          
団栗を拾はず踏まずゆきにけり        チシ
水元に掛かる大橋水の秋
駐車待つ車の列や初紅葉
少年の野球軍団天高し
秋雲の水面に映る小合溜

          

 


秋草やマラソン人へ道を空け         オミ
木洩れ日の秋の七草たずね行く
秋暑し一瞬待てるカメラマン
黄葉舞う檜舞台に居る如く
猫じゃらし風につんつん金色に

          

 


県境の閘門橋や秋の声            イア             

いっせいに木の葉散らせる風の来る
水切の小石に遊ぶ秋の声
秋日射す閘門操作する像へ
天高し拡声器音むこう岸

         

 


バス車内われらのみなり柿日和        アヒ
秋高し閘門橋の赤煉瓦
丈低き草に沈める秋の蝶
秋景色愛でて歩数を伸ばし行く
秋肥ゆる八宝菜を平らげて

         

 


秋天やポプラ並木の道伸びる         シミ
葛飾の果ての名残の真葛原
穂薄を手にしふっくら陽の温み
吹かれてもまたも寄りくる秋の蝶
釣人の去る時消ゆる秋の蝶

          

 


秋光へしなふ釣竿小合溜           ウチ
草の実の昨夜の風雨を耐へてゐし
秋風や肩へと木の葉触れさせて
つんつんと茎を残せる彼岸花
赤き実の名は花水木仲間から

          

 


せせらぎや閘門橋の秋深し          ヤミ
晩秋の小鳥を見むと背伸びかな
秋の昼魚釣る人に闘志有り
団栗は落つべき場所へ落ちにけり
「水元の水郷」てふ碑秋気澄む

          

 


底紅や帽子に隠れをりし顔          トンボ
人見えぬポプラ並木の冷まじき
向き向きの風を捉える尾花かな
藤袴思ひ人にも遇うごとく
やうやくに揺れだしにけり藤袴

 

◎3. 俳句の語句の読み

・沈黙と云ふも回答鰡跳ねる

 

…「鰡」は「ぼら」。
 大きくなるにつれて呼び名が変わる出世魚の一つで関東では、オボコ→イナッコ→スバシリ→イナ→ボラ→トド。※「トド」は、とどのつまり。「イナ」は鯔背の語源とも。

 

・遺言などなしにくちなは穴に入る

 

…遺言は「いごん」。「ゆいごん」とも。

 

…くちなは穴に入るは、「蛇穴に入る」の意。 

 

・末伏の酢を利かせたる鰻作かな

 

…末伏は「まっぷく」。立秋の後の初めての庚の日。
 

…鰻作は、「うざく」。関西の料理の一つでかば焼きにしたうなぎを細かく切り、薄く刻んでもんだきゅうりと三杯酢であえた料理。「鰻ざく」とも書く。

 

・きはちすに触れて柩の舁かれけり

 

…きはちすは、歳時記によれば「木槿」の別称。


…舁かれは、「かかれ」と読めばよいでしょう。

 

・きちきちや空の広さを知りし頃

 

…きちきちは、きいきちばったのこと。

 

・母に似し兵児帯ふたり盆踊

 

…兵児帯は、「へこおび」。男子または子どものしごき帯のこと。

 

・幕間の話題途切れて秋扇

 

…秋扇は、「あきおうぎ」。広辞苑に「秋になって使われなくなった扇」。 大辞泉に、《漢の宮女、班婕妤(はんしょうよ)が君寵を失った自分を秋の扇にたとえて詩を作った故事から》男の愛を失って捨てられた女のたとえ。この故事を仕立てた能がある。

 

・硯洗ふ母似成りし夫の背

 

…硯洗ふは、「すずりあらう」。季語で七夕の前日、ふだん使っている硯や机を洗い清めることをいう。七夕の朝は、この硯に稲や芋の端の露を集めて墨をすり、七夕竹に吊るす色紙・短冊を書いた。また京都北野神社で御手洗祭が執り行われて菅原道真公に子供たちの字の上達を祈った。

 

・到来の鱧に思案の辛子味噌

 

…鱧は「はも」。 

 

・垣間見るビルのそびらは大夕焼

 

…そびらは、後ろの意。そびらは、本来は背中の意。

 

・身体を労るようにとろろ汁

 

…労るは、「いたわる」。

 

・はらからは泉下に多し油照

 

…泉下は、「せんか」。
黄泉の下。あの世。

 

・いにしえの泉声を聞く三十三間堂

 

…泉声は、「せんせい」。泉の水の流れ出る音