◎俳句月報  2018・12月号

目次

1. 11月定例句会報

2. 11月句楽吟行 表参道と明治神宮

3. 俳句の語句の読み方

 

◎1.定例句会報  2018・11月  於・2018・11・25

入選句

 

小春日や卒寿の母の大欠伸        フチ

銀杏を苞に呉れたる寺男         イケ

立てる今歩ける今や石蕗の花       ミノ

今日の日の緞帳下りる冬茜        オミ

先住の墳と伝はる枯葎          イカ   原 句 先住の墳と伝へて枯葎

朝市の婆のほまちの茸飯         アヒ   原 句 朝市の婆のほまちのあんこ餠

冬瓜の煮上がる湯気のうすにどり     ヒタ

ペコちゃんの頭撫でゆく七五三      チシ   原 句 ペコちゃんの頭撫でゆき七五三

三代の柏手揃ふ七五三          シケ

親の顔子の顔相似七五三         ミノ   原 句 親の顔子の顔似たり七五三

 

以上、投句90句のうち10句です

 

 

●句の背景をきちんと抑えましょう 

 

●ジョギングの縮まぬタイム息白し

※健康増進やスポーツのトレーニングのため行うものがジョギング。

多くは、ゆっくり走るものでタイムを競うものでは無いと思います。

 

●川土手を行き交ふランナー星月夜

※この句は、ランナー同士が行き交っている場面。空を見ると星月夜だったという句意です。

ランナーは、走る人には違いはないのですが、イメージとしては陸上競技や野球の走者。

そのような走りをしている人同士が行き交うところが川の堤防。そこに違和感があります。

 

この2句、同一人の作ですから「ジョギング」と「ランナー」を試しに入れ替えてみましょう。

 

 ・ランナーの縮まぬタイム息白し

 ・ジョギングの人と行きかふ星月夜

 

入れ替えただけなので、優秀作とは言えませんがこれで読める句になっていると思います。

 

季語が生きて、情景がはっきりしてきたことに注目ください。

 

●寒声や三帰依文と心経と

※「寒声」は、晩冬の季語にあります。角川俳句大歳時記に「厳しい寒中に喉を鍛えると一層いい声が出るというので、夜間や早暁に寒風に吹かれながら発生の練習をする。声楽家、僧の読経の修行のほか、声を職業とする人たちが発する声には気合が籠り聞く者の心まで緊張感が伝わる。云々」とあります。

 

本人の発言によると、法話の会で三帰依文と心経を読み上げる時、僧から腹から声を出すようにとの意で「寒声をもって」との話が出たようです。その故、この句は季語にある寒声を持ち出したものと思われます。

歳時記の解説にあるように寒中に声を鍛えるこということが季語の本意ですから、季語にあったとしてもこのように使えません。この様なことが多いように思いますが慎むことを願っています。

 

 

●年用意始まるけふの墓参より

※「墓参」は季節に関係なく行われますが盆に最も供養するところから盆の墓参に限り季語とし秋の季語となっています。菩提寺へは歳末のご挨拶に行きますがこの句の墓参りは、この意をも含んでいるでしょう。墓参とか掃苔など秋の季語という意識が強いようで気にかかる人が多いようです。

 

歳時記には、正月の準備を始める事を「お事始め・事始め」といいます。12月8日とか13日とその家によって違うようですがその日から年用意がはじまります。なお、事始めは農事のはじめを言うこともあり、その際は2月冬の季語になります。

  

歳時記では微妙にその本意を異にする季語があります。歳時記でよく確認しましょう。

「季語」と言いますが本来は「季題」のことです。季題をもって詠むのが俳句です。

 

 

●寺の子のお茶の招待お霜月

※句会の清記用紙には、「招待」のところが「接待」となっていました。本人から何も発言がありませんでした。接待(摂待)という季語があります。

●菩提寺のお斎の膳の納豆汁

※上の句と同じ人の作ですが、菩提寺でお斎を馳走になるという句です。そういうこともあるかもしれませんが、もしかすると「お霜月」の句かがありますから経験がなくよく分かりませんが報恩講などの場面なのかも知れません。

 

俳句が一句屹立するように

 

句の背景をきちんと抑えて作句しましょう

 

季語がしっかりと置かれていることを。。。気を引き締めて確認してください。  

 

◎2.  今月の句楽吟行 表参道と明治神宮 11・3

          
参道を飾る提灯文化の日        チシ
参道のゆるく坂道秋深し
小春日や羽織袴の男の子ゐて
文化の日立食蕎麦屋混んでをり
大鳥居仰ぎて秋を惜しみけり

        


神苑の鳥の響や秋澄めり        イア
学童の囃子のひびく社かな
菊日和鳥居の下の待合せ
駅舎から人人人や文化の日
新蕎麦を急ぎて食すガード下

          


大鳥居見上げいる先秋の雲       イケ
参道を旗に提灯文化の日
文化の日参道数多異国人
秋天や三の鳥居の新しき
文化の日街に若者集い居り

          


参道のポリスボックス冬隣       アヒ
若き日のその地に立てる秋思かな
晩秋や亡父と歩みし槻並木
一の鳥居二の鳥居へと秋気澄む
神宮を畏れぬ鴉秋暮るる

         

 
参道の玉石団栗踏みにけり       フチ
文化の日異人も撮りし御誓文
神宮の御歌の木札菊花展
背負われてべそかく子ども七五三
立食ひの蕎麦を初めて秋高し

          


天高し菊花の紋のまぶしかり      みなみ
枯葉積む清正公の井の垣根かな
交ざり来る異人邦人文化の日
人を待つ鳥居へ落つる木の実かな
冬近し百年の森に疲れあり

          


玉砂利の音のべうべう文化の日     トンボ
大鳥居くぐり菊の香御本殿
菊の香やいまに五箇条御誓文
清正の井戸への道や秋深し
若者の何の行列うそ寒し

 

◎3. 俳句の語句の読み

・夕さりて雨となりたる厄日かな

 

 …「夕さりて」は「ゆうさりて」。夕方になること。
 …厄日は「やくび」。秋の季語「二百十日」の傍題。

 

・ガントリークレーンと船と秋澄める

 …ガントリークレーンは、架構が門形をなし、地上の軌道を走るような形式のクレーン。

 

・餠負ひの嬰の歩みや秋澄めり

 

…餠負ひは、「もちおい」。
 広辞苑に「満一年の誕生祝い。この日祝餅をついて子に負わせる儀式がある」とあります。形ばかりとはいえ餠を背負っているのですから「嬰の歩み」などという言葉を持ち出すまでもなくその姿はまざまざと「餠負」の言葉に含まれて場面を想像させてくれます。俳句で言う省略とはこれ。これを踏まえて再考ください。

 

・秋澄めるわが身本来無一物

 

…本来無一物は、「ほんらいむいちもつ」。禅の根本原理といわれる言葉で人間とは生まれながらにして仏。修行とか、学問とかそういう意識を持ったとたんに逆に仏から遠く離れていく。そういうことから離れ脇目もふらずにおろかに思えることをも一生懸命に打ち込めよ。ということ。わが身に鑑みての自省の句。

 

・茸狩り穴場知りたる父に随き

 

 …茸狩りは、「きのこがり」。茸採りを職業とする人にとってはその場所は、秘中の秘で子どもにも教えずに、重要度が理解出来るようになってから初めて連れて行く所とか。「茸狩り」「穴場」とかいうような所ではないようです。
 …随きは、「つき」。随行からの意と思われます。

 

・猿橋の刎木や峡の渡り鳥

 

 …刎木は、「はねき」。 

 

・電子辞書「あこめのはな」と見つけたり

 

 …早速電子辞書を見てみましょう。「ススキの異称」。

 

・石の下に隠れていたり穴惑

 

 …穴惑は。「あなまどい」。秋の季語「蛇穴に入る」の傍題。

 

・端渓と口伝の硯洗いけり

 

 …端渓は、「たんけい。

 

・秋没日礁を洗ふ波頭…

 

 …秋没日は、「あきいりひ」。
 …礁は、「いくり」。

 

・受洗せし人の来てゐる盂蘭盆会

 

 …受洗は、「じゅせん」。キリスト教で洗礼を受けること。

 

・纐纈の洗い晒しか竿の波

 

 …纐纈は、「こうけち」・「こうけつ」。絞り染めの名でそのようなものを着ている釣人のことでしょうか。苗字としてもよく目にします。地名として美濃(岐阜県)に多く、纐纈神社があると言います。いずれもそれに関係が深い所です。