◎俳句月報  2019・01月号

目次

1. 12月定例句会報

2. 12月句楽吟行 冬紅葉の平林寺

3. 俳句の語句の読み方

◎1.定例句会報  2018・12月  於・2018・12・16

入選句

 

研ぎ痩せの母の庖丁年の暮          シミ

  ※「研ぎ痩せ」の言葉を得てやったりと思ったのでしょうがそれが落とし穴。芝居がかった型通りのものを揃えていますが、一句となるとこれを納得させるものが必須。詠み手の姿が浮かんでこない空想句に見えてしまいます。句会では、どなたの作か分かりませんが詠み手が分かるとこの様な疑問が出て来ます。

 

病院のロビーやクリスマスコンサート     イケ

  ※字余りを承知の上で「や」という点を入れてみると実景が浮かんできます。

 

短日の藥罐ピーピー鳴つてをり        シケ

  ※季語が生きて使われている事が取り柄です。旧字を敢えて使う意味は窺えない。

 

神仏の御座す奥山眠りけり          シミ

 

付き合いのこちらをたてて秋の風       ハセ

  ※季語の面白さ。

 

帰国して直ぐに師走の主婦なりき       シケ   原 句・帰国して直ぐに師走の主婦となり

   ※只今のわれをきっちり出すこと。

 

嚏して井戸端会議終はりけり         シケ   原 句・嚏して井戸端会議終はりけり

 

闌の秩父夜祭灯のまつり           アヒ

  ※ある面を突いた断定。

 

母の背へ幾度も当て毛糸編む         シミ

  ※「幾度も」などと感情を伴わぬ型どおりの句。ここからぬけだしましょう。

 

突然に訪ね来たりし風邪の神         チシ

 

風邪の子や座ればすぐに甘え来る       シミ

  ※景が見える。他の人の句に〈風邪の子の朝より母を独り占め〉ありました報告なのでこれは没。

 

◆そのほかの添削句

 

原 句 足踏みしバス待つ女懐手      添削 足を踏みバス待つ女(ひと)の懐手

   

原 句 夫の描くポインセチアの赤き色   添削 夫の描くポインセチアの赤々と

 

原 句 風邪引かぬようと便りのペンを置く 添削風邪引かぬようにと便りペンを置く

 

あるひとの言…俳句の要点 

 

一句は、われ・只今・眼前 で……

 

次は、孫引きですが蛇足まで ↓ 

 

『中部経典(マッジマ・ニカーヤ)』の中に、次のような言葉があります。

  過去を振り返るな、未来を追い求めるな。
 過去となったものはすでに捨て去られたもの、
 一方、未来にあるものはいまだ到達しないもの。
 そこで、いまあるものをそれぞれについて観察し、
 左右されずに、動揺せずに、それを認知して、増大させよ。
 今日の義務をこそ熱心にせよ、明日の死を知りえる人はないのだから。
(中村元監修『原始仏典〈第7巻〉中部経典4』 春秋社)

 

◎2.  今月の句楽吟行 冬紅葉の平林寺 12・01

 当日の句

         

知恵伊豆の廟所苔むす枯るる中     アノ
朴落葉落ちて拡がる廟所かな
野火止の細き流れや冬うらら
冬麗や尽きせぬ話題武蔵野線
禅僧の姿見かけぬ紅葉寺

 

 

          

日に透けてステンドグラスめく紅葉   アヒ
蒼天や槭樹紅葉に日の恵み
冬もみぢ遺して去りぬ竜田姫
野火止や火気厳禁の枯葉径
冬晴や予定崩るるそれも良し

          

 

 

冬陽ざし老いにし肩をつつみけり    ハセ
平林寺冬の紅葉につつまれる
一歩ずつ歩む寺道冬もみじ
知恵伊豆の紅葉にねむる平林寺
老いぬれど若き友いる冬もみじ

          

 

 

山門入るわっと広がる紅葉かな     イア

いにしえの野火止塚や枯葉満つ
菊供わる松平家墓累々と
冬草のつつみて清し野火止用水
冬晴の吟行日なり平林寺

       

 

   

野火止の小川流るる小六月       オミ
茅葺きの三門映える冬もみじ
逆光の透かし織り成す冬紅葉
武蔵野の雑木林の落葉踏む
冬紅葉茅葺屋根の猪目懸魚

         

 

 

樹木医の名札吊るされ冬紅葉       シミ
初冬の雀わらわら平林寺
もみじ山羽化し尽せり冬尺蛾
半僧坊観応殿の枯桜
冬枯の木の天辺に鳥の声

◎3. 俳句の語句の読み

・梯子には臀だけ見ゆる松手入

 

 …臀は、「しり」。臀部のこと。

 

・飛火野の釣瓶落しや鹿の声

 

 …飛火野は、「とぶひの」。今の奈良市の東部、春日野の別称。「とびひの」ではない。歌枕になっている。

 

・うそ寒し厠上枕上馬の上

 

 …厠上枕上馬の上は、「しじょうちんじょううまのうえ」。文章を練るのに最もよく考えがまとまるという三つの場所があると言い、それが馬上‣枕上・厠上の三つ。つまり三上と言われています。

 

・高張を掲ぐ老舗の新子かな

 

 …高張は、「たかはり」。高張提灯のこと。
 …新子は、「しんこ」。すし店店主が書いている次のような文章があります。

 

〈コハダは、出世魚である。
コハダはシンコ、コハダ、ナカズミ、コノシロと4回名を変えながら、成長し出世してゆく。この4段階の出世魚達は、それぞれ生態と魚群を微妙に異にし、漁期、旬をも別にしている。
 「新子」は、 コハダの稚魚であり、子供であるが、東京のすし屋にとっては、あまたあるすしネタの中でも最もこだわりを持って大切にしている特異な魚なのだ。
 かって、江戸っ子が、「女房を質に入れても初鰹をたべる」といった、意地と、誇りと、見栄の世界が、東京のすし屋のこの「新子」に対する世界には、いまだに見事に生き残っている。〉

 

・竹蛇籠錆色奔る下り簗

 

 …蛇籠は、「じゃかご」。

 …奔るは、「はしる」。

 

・下り簗消防団は刺子着て

 

 …刺子は、「さしこ」。 三頁・人去りし湖に素秋の風渡る…素秋は、「そしゅう」。素は、白の意で、白は、秋。

 

・老翁のこだわる銘の菊の酒

 

 …菊の酒「きくのさけ」。秋の季語で菊酒とも。重陽の節句に用いる酒。また、菊の花を浸して飲む酒。

 

・まず以て腹八分目草つ月

 

 …草つ月は、「くさつつき」。陰暦八月の別称の一つ。「葉月」とも。
 

 このほか『広辞苑』に載っている陰暦八月の別称は、〈清秋(せいしゅう)・迎寒(げいかん)・紅染月(こうぞめつき)・木染月(こぞめつき)・其色月(そのいろづき)・南呂(なんりょ)・ささはなさ月・秋風の月・燕去り月(つばめさりづき)・月見月・桂秋(けいしゅう)・桂月(けいげつ)・葉落月(はおちづき)・染色月(っそめいろづき)など〉。まだまだありそうですから探してみてください。

 

・底紅や帽子に隠れをりし顔

 

 …底紅は、「そこべに」。木槿の花で底が紅色のものを底紅と呼んでいる。