◎俳句月報  2019・04月号

目次

1.  3月定例句会報

2. 3月句楽吟行 皇居東御苑

3. 俳句の語句の読み方

 

◎1.定例句会報  2019・3月  於・2019・3・24

入選句

 

春愁や百段上の奥の院              チシ

後見の役目の終る日永かな            チシ   原 句 後見の役目終はりて日永かな

剪定の脚立に女庭師かな             ミウ

ひと雨に色の増しゆく芽吹山           シケ   原 句 ひと雨に色増しにけり芽吹山

芽柳や伊能忠敬住居跡  

犬ふぐり引込線に貨車一輌            シケ   原 句 犬ふぐり引込線に貨車一両

春場所の背広に髷の解説者            アノ   原 句 春場所や背広に髷の解説者

 

手踊で春の盛りを逝かれしか(蝶花樓馬楽さん追悼) アヒ

 

ものの芽の人工芝に生まれけり          シミ

後ろ手の婆彳亍(てきちょく)と麦を踏む     アヒ

蝶生る第二志望の受かりし子           アヒ   原 句 初蝶や第二志望に受かりし子

春塵や仏足石の千輳輪              アヒ   原 句 仏足石の千輳輪紋春の塵

 

※「後見」、「ひと雨」の句はどうにもこうにも、窮屈な表現。滑らかな言葉遣いに直してみました。

※添削句の「千輳輪」は、千輳輪相の略。「千輳輪紋」には違和感があります。

※《春埃窓に童げへのへのも》がありました。思いもよらず、この句の共鳴者が多く出ました。

 「童げ」は、「わらわげ」と読むようで『広辞苑』に『子供らしいさま。落窪物語(1)「あな童げやと笑ふ」』とあります。

この言葉の使用例と照らし合わせてみても、内容も表現も違和感に満ち溢れています。

 

この落窪物語は、平安初期の中納言一家をめぐる継子いじめの物語とか。

 

また、「へへののもへじ」はありますが「へのへのも」とは?

なんでしょう。

 

 

最近特に、多くの句に、上記のこの三つと相通じるような強引な表現が目立ちます。

 

注意ください。

 

 

 

◎2.  今月の句楽吟行 皇居東御苑   3月2日

        
御衣黄の蕾ふくらむ御苑かな             チシ
春浅き外濠通りゆきにけり
外国の人と見てゐる紅白梅
窓を拭くゴンドラ二台春の空
外濠の白鳥一羽水温む

          


ランナーの行き交う広場春の風            イア
水鳥の餌食むお濠水温む
二の丸の跡地の雑木蕗の薹
城垣に春のぬくもり両手おく
木の芽吹くビルの谷間を通り抜け

          


平成の御代を名残の八重椿              イケ
城垣に古き音聞こゆ松の芯
紅白梅馬手に入れば尚蔵館
竹林のさわさわさわと春の風
先帝の后の印桃の花(雅号桃苑)

          


水草生う一心不乱と見える鳥             オミ
春光やどっかとありし城の跡
欹ててガイドの英語沈丁花
城垣の今更大き梅香る
この年を記憶に確と梅の花

          


仰ぎ見る皇居へ続く春の空              シミ
街路樹の傷の塞がり春兆す
本丸の大芝生割りいぬふぐり
二の丸の庭園の鯉跳ねて春
二の丸の雑木の梢囀れり

          


石垣に火事の痕跡紅梅花               アノ
水温む内濠渡り大手門
門鋲も樋も緑青春動く
桝形の石積み高し枝垂梅
春光や本丸跡の大芝生

          


残る鴨濠の広さを自在にす              アヒ
白鳥の一羽漂ふ春思かな
梅東風や石垣にある遊び石
松の芯百人番所ひつそりと
雑談の中に入り来る丁字の香

          


石垣はパズル春光渡る大手町             ヤミ
その上の忍者の詰所春きざす
落椿三三五五と散らばれる
春寒や腰を伸ばして入る御苑
打込の気合の声や春動く

          

春なれや東御苑のとこしなへ            トンボ
春めける御製御歌の御前へ
藪椿ここは本丸御殿跡
大奥の跡地なりけり落椿
春風のほがらほがらと天守跡

◎3. 俳句の語句の読み

・映像の今上陛下日脚伸ぶ

 

…今上陛下は、「きんじょうへいか」。当代の天皇陛下。

 

・千手千眼像を蔵せる霜柱

 

…千手千眼像は、「せんじゅせんげんぞう」。『千手千眼陀羅尼経』に説かれている千手観音さんの像。

 

・冬日射す骨董市の金襴手

 

…金襴手は、「きんらんで」。

 

・寒月やうちわ太鼓の過ぎ行けり

 

…うちわ太鼓は「うちわだいこ」。団扇太鼓をたたきながら、寒行の一団が通り過ぎて行ったのでしょう。

 

・錦絵の階子乗之図初暦

 

…階子乗之図は、「はしごのりのず」。錦絵に書かれている画題のようですからこのように判じて読むことになるでしょう。

 

・人日や歩幅を少し伸ばさんと

 

…人日は、「じんじつ」。新年季語で一月七日。この季語は、この句には少し違和感があります。
 余談ですが、鎌倉・室町時代、宿将・老臣が毎年正月元日・二日・三日・七日・十五日などに将軍を自分の営中に招いて盛宴を張ったといいます。これを「椀飯「(おうばん)」と言い、つまり「椀飯振舞い(おうばんぶるまい)」のこと。これ、新年の季語です。

 

・薄墨の友の文来し木の葉雨

 

…木の葉雨は、「このはあめ」。冬の季語で、薄墨の筆跡と取り合わせには難はないでしょう。

薄墨の文字と言えば人の死を悼んで涙で墨が薄くなってしまったという意で香典袋には薄墨を使います。その心がこの句にも見えています。

 

・枡鍛冶は父祖の生業年詰まる

 

…枡鍛冶は、「ますかじ」。枡は取引の重要な道具。藩侯から公認された限られた専門の家があったのでしょう。公認された事を示すために使われたのが焼印でした。

枡鍛冶とは、その焼印造を任された家ということでしょう。

 

・初参りうんたらたーかんまんと…「うんたらたーかんまん」は、不動明王御真言の最後の部分です。成田山新勝寺では正月、初護摩が焚かれますがその時御本尊のお不動さんへ一堂揃ってこの御真言を唱和します。
 日光に「かんまん淵」と云うところがありますが、この「かんまん」は、川の流れの音がこの御真言のように聞こえるというところから付けられたといいます。
 

この音のひびきが参道を歩く動作にも重ね合されて聞こえてくれることを意識しているような句として読んで欲しいという句でしょう。