◆2019・06月号

 

目次

1.  5月定例句会報

2. 5月句楽吟行 旧芝離宮庭園

3. 俳句の語句の読み方

 

◎1.定例句会報  2019・5月  於・2019・5・26

今月の入選句

 

木下闇ここから進む奥の院        チシ

真夏日や夫に手作りちらし寿し      ヤミ

カーネーション枯らしてならん妻のため  アノ

白靴の背筋のばして歩きけり       イケ   原 句 白靴背筋のばして歩きけり

筍の土の香のあり宅急便         フチ   原 句 筍や土の香もあり宅急便

沿線の薔薇を求めて荒川線        オミ

闇凝らし追えば音なき螢川        コフ

草笛のあの子どうして居るのかな     オミ

草笛淋しからずや横顔も         ヤミ

草笛の城址から見る千曲川        アヒ   原 句 草笛や城址に佇てば千曲川

菖蒲湯のしょうぶの香立つ夕べかな    ミノ   原 句 菖蒲湯のしょうぶの匂嗅ぐ夕べ

草笛や信濃に生きて祖父の死す      シケ   原 句 一世を信濃に祖父の草の笛

 

一句半解

 

夏きざす能の見所の足拍子

 

※「見所」は「けんしょ」と読みますが、国語辞典では「観客席」のこと。

観客または観客が見せる反応など「見所のうけはどうですか」などとも使われます。

「みどころ」の意もありますが、見どころは、能作者や演者が工夫に意を求めるとろ、で意でつかわれることもあります。

 

作者はこの句の「見所」を見どころたる山場の足拍子の場面の意だといいます。

 

見どころは、確かに足拍子の場面。言われるまでもなくそれが見どころの一つでもあるでしょう。そのことを単になぞっているように思えます。

手が出ましたが、つまり説明なのでボツとしました。

 

観客が思わず見せた足で拍子をとったということの方が自然で、これは勿論自分の事として。

 

場面の説明よりは、自分のこととして詠むこと。

 

 

 

 ・原句 一世を信濃に祖父の草の笛

 

の、句。よく分かりませんが、作者の思いを聴きましたので、それを念頭において、思い切って

 

草笛や信濃に生きて祖父の死す

 

草笛や信濃に生きて祖父死せる

 

としてみました。

 

原句の複雑な言い回しをすっきり。意味が見えてきたと思います。

 

俳句はすっきりまとめましょう。

 

◎2.  今月の句楽吟行 旧芝離宮庭園   5月4日

 

※現地へ参加しながら句を出さないということはどうなんでしょうか。

同じ人が連続で三回続いています。

         
さざ波の西湖の堤つばくらめ       イア
石段を九尺山へと松の芯
ビルの影映して西湖杜若
四阿に見下ろす西湖春の風
みどりの日恩賜庭園賑わえる

          


さざ波の西湖の堤夏近し         オミ
御代代り恩賜庭園杜若
夏隣文化放送電波塔
乗換駅なんじゃもんじゃと山法師
春惜む見直し見入る車輪梅

          


若葉風九尺台に登りけり         チシ
梅の実のみのる庭園巡りをり
春深し西施偲びぬ芝離宮
芽楓の枝の合間のビルディング
ゆく春や駅前ライブ休憩中

         


飛石に続く石橋杜若           アヒ
樹木名御衣黄とあり花は葉に
椨の芽のほのくれなゐに現るる
四十雀園を称えて鳴き移る
飛石に会はぬ歩幅や犬ふぐり

          


みどりの日庭園開放無料の日       アノ
外つ国の人の愛でいる花菖蒲
芝離宮水面かすめるつばくらめ
高層ビルの影が西湖に夏隣
船笛の鋭き一声藤揺れる

          


海風を纏うビル群つばくらめ      シミ
潮入りし大泉水の蘆若葉
椿咲く島へ出船の汽笛かな
藤棚に弓持つ少女屈みけり
ビル窓へ鋭き光夏隣

         

 
遠汽笛九尺台に春惜む         フチ
藤の花揺れてカツプル笑ひ合ふ
行く春やフジツボ残る潮入跡
築山のふもとは芝生イヌフグリ
泉水の黒き護岸の燕子花

          


春愁の覚めて此の世の西湖かな    トンボ
鶴亀の島へ往き来のつばくらめ
石組の龍門瀑やイヌフグリ
枯滝の落ち来る瀧の音聞こゆ
四阿に居れば涼しや只をれば

 

◎3. 俳句の語句の読み

毎回そうですが、佳句とみなして採り上げているものではなく、任意に採り上げる句を選んでいます。

 

・後ろ手の婆彳亍と麥を踏む

 

…彳亍は、「てきちょく」は、歩いてはとまる。

 

・造り手の個性あらわる紙雛

 

…紙雛は、「かみひいな」。「雛」は俳句では「ひいな」と読むことが一般的です。

 

 

・鼓草近くに見ゆる車椅子

 

…鼓草は、「つづみぐさ」。タンポポの異称。春の季語。

 

・登りきて伏姫桜息を呑む

 

…伏姫桜は、「ふせひめざくら」。推定樹齢約400年の枝垂れ桜で真間山 弘法寺にある。いつだれが名付けたかは不明との事です。

 

・無の多き心経写経彼岸寒

 

…心経は、「しんぎょう」。般若心経のこと。「無」の字が多いと云う意です。

 

・彼岸会や満願僧の水垢離す

 

…満願僧は、「まんがんそう」。2度ほど見ましたが、中山法華経寺へ秋の頃籠って修行僧が100日間の修行を終えた後、毎年2月11日に満願を祈念して行う真冬に冷水を浴びるという荒行が鎌倉長勝寺で行われています。彼岸会に行う満願僧の水垢離が行われているところがあるのでしょう。

 

・水面を見つめる小鷺迎春花

 

…迎春花は、「げいしゅんか」。黄梅の漢名

 

・夜桜や鐘の余韻の格天井

 

…格天井は、「ごうてんじょう」。

 

・かにかくに奈良は日暮やお水取

…「広辞苑」は、かにかくにを万葉集巻七・1302の歌。「明鏡国語辞典」は、「かにかくに渋民村は恋しかりおもひでの山おもひでの川」を出典としに揚げています。

実はもう一つ、昭和30年、吉井勇、谷崎潤一郎らによって建立された歌碑があり、吉井勇の作で「かにかくに祇園はこひし寝(ぬ)るときも枕のしたを水のながるる」があります。この歌は、祇園の思いを詠んだもので石川啄木らと編集を担当した「スバル」にて他の祇園を詠んだ歌とともに発表されたものとか。吉井勇の忌日は「勇忌」「紅燈忌」「かにかく忌」とも。この句の「かにかくに…」は、勇のこの歌を下敷きにしていることが窺われます。

 

・仏足石の千幅輪紋春の塵

 

…仏足石は、「ぶっそくせき」。釈尊の足形、千幅輪相が石面に刻まれている。
千幅輪紋の「紋」は、紋様のことですから誤り。

仏には、三十二の特徴があり、これを仏の32相と言い「手と足に法輪の模様がある」とあり、この法輪は「千幅輪」の事ですから千幅輪相。略して千幅輪とも言います。
 仏像の「白毫」は、眉の間に白毫相(白毛相)。これもよく目にする32相の内の一つです。