◆2019・08月号

目次

 

◎1.  7月定例句会報

◎2.  7月句楽吟行 向島百花園にて江戸東京野菜を味わう

◎3. 俳句の語句の読み方

 

◎1.定例句会報  2019・7月  於・2019・7・28

当日入選作

 

客席にしぶき飛びくる夏芝居   アヒ       原 句 客席に及ぶしぶきや夏芝居

洞窟の仏にしぶく清水かな    オミ       原 句 洞窟の仏にしぶく岩清水

寺清水ペットボトルに貰ひけり  チシ

明易の夢に入り来る鴉かな    アヒ       原 句 明易の夢に入り来る鴉声かな

外国へ持たせる絵扇選りにけり  シケ       原 句 外つ国へ持たせる絵扇選りにけり

蚊遣り立つ五十回忌の寺座敷   コフ

夕立の水滴光る竿二列      ヒタ

船上に開けるワインや梅雨夕焼  シケ

奥宮の岩に垂ある清水かな    シケ

流れ落つ清水に腕をまくりをり  チシ

伏流の旅の終りの清水かな    オミ

 

 

入選には至りませんが、まずは、添削。

 

梅雨明ける製氷室の音高し       

 

添削句 梅雨明けて製氷室の音のする

 

※いわゆる報告の句から発見の句に変身させました。

 

塩飴を舐めて大暑の稽古終ゆ      

 

添削句 塩飴を大暑の稽古終へてから

 

※雨を舐めながらの稽古ですか?

稽古を終えてからの一つの塩飴。これなら、これでやり切った気持ちが出てくるでしょう。

 

花柘榴売物件の家の垣         

 

添削句 花柘榴売物件の家の庭

 

※句意を理解できないので例えばこういうことなのだろうと整理してみました。

 

季語に誠を尽くしましょう!

水打って空ラの馬穴の空ラの音

※打水の本意を理解するならば、季語に誠を尽くすならば、こういう句はありえないでしょう。

 

仕立て直し母の着る子の白絣

※子供の白絣を解いて母の着るものに仕立て直しているという句のようです。

白絣の着ている白絣の眩しさこそ、白絣の眼目になるように思えますが?

 

レプリカの微笑む埴輪熱帯夜

※埴輪の多くは土産として売られている埴輪は、ほとんどレプリカのようです。貰ったのか自分で手の入れたものか分かりませんが、安く手に入ってよかったねとほほ笑んでいるのでしょうか。違和感のある微笑です。新しい季語の一つとして熱帯夜が生まれてきましたが…

 

以上、この三句とも作者が見えてきません。季語や対象物に誠を尽くしているならば、自ずと作者が浮かび上がってくるはずです。

とにもかくにも、生活者としての息遣いが感じられません。

 

茄子漬けて明日の予定を確むる

※食べる時期を見計らって茄子を漬けると言う事であれば…、それが茄子に誠を尽くしていること。そこにその人物の人柄が浮かび上がってくることでしょう。

 

冷奴夫婦のみ知る今昔

※夫婦のみ知る今昔ということで、読者を考えていない句であれば冷奴でなくとも何でも好いことになります。季語を置き換えてみれば何でもよいことに気が付くでしょう。

 

◎2.  今月の句楽吟行 向島百花園にて江戸東京野菜を味わう  7月6日

          
糠雨に打たれて下がる青ふくべ        チシ
水馬のにはかに増える梅雨晴間
顔に来る藪蚊払ひて花を撮る
百花園青葉若葉の中巡る
         


本殿前寺島茄子の鎮座せり(白鬚神社)    イア
落ちそうな大瓢箪の雨の粒
石橋や波紋のごとく水馬
露草の少し顔出すしのぶ塚
          


池の面に群舞のごとく水馬          イケ
夏萩のトンネル花のちらほらと
大瓢細きつるよりたれさがる
門脇の姫睡蓮や紅ほのか
          


大小も同じ形の青瓢             ミノ
水鉢や萍一面浮かべおり
あめんぼやじっとしていず数読めず
半夏生群生するや池の端
          


半夏雨継がれ広まる江戸野菜         フチ
八つ割の半白胡瓜ぱりと噛む
百花園馴染む水辺の半夏生
歪みなき瓢箪をんな庭師居て
          


下り立ちて梅雨空重き地蔵坂         アヒ
雨粒をはじくひさごの産毛かな
藪蚊入る受付の戸の開け閉てに
江戸野菜味はふ茄子の揚げびたし
          


わらわらと波紋の数のあめんぼう       アノ
夏草のありのままなる百花園
瓢箪に大中小の重さあり
行燈の灯の入口の木下闇
          


小旗揺れ冷しラムネの茶店かな        オミ
歯応えの半白胡瓜梅酢味噌
こんにゃくの句碑読返す梅雨の庭
藪蚊打ち花の名前を確かむる
         

 
夏木立山の匂いの百花園           シミ
御成座敷上がり框に蚊遣香
先ず口に熱き汁物梅雨寒し
清清し馬込半白胡瓜の香
          


集いゐる御成座敷や梅雨晴間         ヤミ
江戸野菜ことに茄子のつぶらなる
大和しじみ汁茶めしもさぶらふぞ
雨上る薄紫の花ぎぼし
          


青梅雨のあをの膨らみ出せる庭       トンボ
青梅雨や煎茶抹茶も候ふぞ
青梅雨や寺島茄子の出処の地
青瓢箪小林一茶の目もて見る
木歩あや漂ふ気配梅雨深む

 

 

◎3. 俳句の語句の読み

令和元年6月号から

 

・明易や七仏通偈成り難き

 

…七仏通偈は、「しちぶつつうげ」。七仏通戒偈のこと。過去七仏が共通に戒めとした偈。仏教は結局これ一語に帰する、といわれている偈。写真は、一休禅師の墨蹟。
 諸悪莫作(もろもろの悪をなさず)
 衆善奉行(すべての善を行い)
 自浄其意(自らの心を清くせよ)
 是諸仏教(これが諸仏の教えである)
 このことは、三歳の童でも知っていると言われていますが…。

 

・袋角触れなば熱きものならむ

 

…袋角は、「ふくろづの」。鹿の角は毎年落ちるが抜けあとから出てくる角を袋角という。その内部に血管があり、栄養を補給して充分に伸長すると血流が止まり外側の皮膚をこすって落とし立派な角となる。鹿茸ともいわれ漢方薬になる。

 

・夏きざす能の見所の足拍子

 

…見所は、「けんしょ」。「けんじょ」とも言い、観客席。

 

・初夏のかぜのめくりしあそび紙

 

…あそび紙は、「あそびがみ」。書物の装丁でのことば。巻頭・巻末の見返し紙と本文の間に付ける白紙のこと。状況としては不自然ですが、表紙を開いているので風でめくれたりしているのでしょうか。

 

・蚕豆や婆の手塩は今年無く

 

…蚕豆の読みは漢名で「さんとう」。植物「そらまめ(空豆)」の異名なのでこの句では、「そらまめ」。豆の莢が蚕に似ているところから。句意はよくわからない。

 

・病院の杜鵑花に触れて戸扉押す

 

…杜鵑花は、「さつき」。なお、秋に咲く杜鵑草は「ほとぎす」。

 

・舷に触れる梢の芽吹きかな…舷は、「ふなばた」。

 

・さざ波の西湖の堤つばくらめ

 

…西湖の堤は、「せいこのつつみ」。支那、浙江省の杭州の西に接する湖で三方を囲んだ山には古跡が多く、唐代から漢詩などで日本にも紹介されている。西湖六橋のうち一橋をもって好んで日本の庭園に再現されている。この句は、旧芝離宮恩賜庭園のもの。

 

・春深し西施偲びぬ芝離宮…

 

西施は、「せいし」。西施は、支那、春秋時代の越国の美女。越国は今のベトナム。

・王昭君《おうしょうくん》(前漢の人で匈奴の呼韓邪単于《こかんやぜんう》に嫁す)

・貂蟬《ちょうせん》(魏、蜀、呉を舞台とする小説に登場する架空の人物)

・楊貴妃(蜀出身)を合わせて俗に古代シナ大陸四大美女といわれている。傾城。

 

蘇東坡は「晴れた西湖の景色を西施の薄化粧に、雨に煙る景色を厚化粧に例えていますが

芭蕉は「奥の細道」で〈象潟や雨に西施が合歓の花〉と詠んでいる。