目次
◎1. 9月定例句会報・俳句展
◎2. 8月句楽吟行 旧新橋停車場
◎3. 俳句の語句の読み方
入選句
秋冷や少し猫背の異邦人 コフ
無宿猫釣瓶落しの石段に アヒ
秋日傘半径五〇センチの影に居り ナミ
露草や母の面影母の色 ナミ
秋うらら宝塚歌劇を予約して イケ 原 句 宝塚歌劇の予約秋うらら
行く船の波の生れて水の秋 チシ
油彩画の匂う工房秋湿 シミ
踵から踏む五千歩や秋高し フチ
新走卓に残せる串の数 アヒ 原 句 新走卓に残せし串の数
露の玉梵字ひとつの無縁墓 シミ
朝露や硯に受けしことどもも ナミ 原 句 朝露や硯に受けし事なども
その他の添削句
原 句 例祭の果てて良夜の帰り道 添削句 例祭の果てて良夜を帰りけり
原 句 朝露の一番電車顔を出す 添削句 朝露や一番電車顔を出す
原 句 涼風や老人健診混み合えり 添削句 涼風や老人健診込み合える
原 句 花芒穂に露ためて光おり 添削句 花芒露を穂にため光おり
原 句 白露を震はす胡弓盆の舞 添削句 白露を震はす胡弓風の盆
◆自分の枠を超える
今月注目した句がありました。
無宿猫釣瓶落しの石段に
です。
野良猫の句ですが「無宿猫」の措辞に注目しその故に特選としましたが、実は、単なる町内で面倒を見ている「町内猫」と作者が言い出しましたのでボツとしました。
「無宿猫」と言われると、ふてぶてしい態度や面構えを見せる野良猫本来のペーソスを備えたネコを思わせます。
無宿などと云うことは猫に対してはあまりない表現ですがそういう作者独自の創作表現を称賛したいと思っていましたがその意識のない単なる言葉遣いと言う事。これではボツです。
無宿猫などそんなものはないという人もいるでしょうが、こんな句もあります。左にその例を挙げておきます。
自分の枠を意識して超えようとすることを意識して欲しいところです。
◆石段から辺りを睥睨する無宿猫が釣瓶落しの闇に消えていくところなどが想像されて映画の一場面のように思えてきます。なにか寂しい余韻を引きずります。こういう読み方もあります。
以上、極端な話をしましたが、感情を直に表現するこどもの俳句には、幼いながらも 参考になるでしょう。
一例を挙げておきます。
KODOMO俳句選者・高柳克弘
とりたてのごつごつきゅうり朝食に
新潟県 柏崎市立柏崎小学校6年 高橋煌
【評】畑から朝食のテーブルへ、すぐさま届けられる「ごつごつきゅうり」、とってもおいしそう! 「ごつごつ」という荒っぽい印象の言葉を、キュウリのみずみずしさを表す言葉として使ったことに、驚かされました。
別のところにこんなことも書いてありました。
芭蕉)の「秋海棠西瓜の色に咲きにけり」は、秋海棠の花の色が西瓜に似てピンク色だという意味。比喩の表現って面白いですよね。「〇〇は××の色に咲きにけり」の形に、花とそれと似ている物の名前を入れて遊んでみて!
来てみれば定家葛の延うテラス イア
喧騒の街の庭園秋暑し
訪ね来し停車場跡の秋の風
秋涼しビルの谷間のカフェテラス
プラットフォームの遺構をのぞく昼の虫
蜩やビルの谷間の遊歩道 チシ
浮世絵にありし江戸海涼新た
ビル群の底から見上げ秋高し
回転ドアに招かれ入るビアホール
停車場の跡地をたづね秋の虫
長月や定家葛と知り初めし オミ
風の音秋の気配のビル谷間
柳散る旧新橋停車場跡
汐留の北側広場初紅葉
実柘榴のビルの谷間に二つ三つ
秋爽やビルの谷間に風抜けて アヒ
秋思かな旧停車場に佇めば
ビル群の谷間に天の高きかな
窓拭きのゴンドラ降下秋日濃し
秋風や自動回転ドア回り
秋の昼新橋という橋探す アノ
燈下親し浮世絵に見る停車場
停車場の遺構の煉瓦蔦紅葉
ランチとてラムステーキと生ビール
ビルとビル狭間流れる秋の雲
見上げいるビルの果てには秋の雲 ミノ
ビル高しそれより高き秋の空
埋まるようにビルの谷間に虫の昼
年号をつけて鉄骨秋暑し
秋暑し大手の会社巨大ビル
新橋という橋あるなし秋思かな シミ
新橋の空の向うに海ありき
町騒の天辺に秋来りけり
週末のビジネス街の昼の虫
秋日和回転ドアを二人づつ
高層ビル街路に今し風は秋 フチ
秋風や鉄道遺構へ渡りける
流線形銀翼飛べり秋の空
切石の駅舎跡ありざくろの実
電車来て夏の帽子をおさへけり
ライオンてふ店に皮椅子秋暑し ヤミ
枕木の残る路線や秋の声
旧線路定家葛を這わせたき
結髪の女居る写真秋扇
チョコ菓子のゴデバの灯し秋の昼
ビルにビル影を映して天高し トンボ
休日のビジネス街や初紅葉
土少しあればかくまでざくろの実
秋風を連れて回転ドアへ入る
空見れば空いつぱいの秋の空
・水飯を箸の音たて啜りゐる
…水飯は、「みずめし・すいはん」。この句では「みずめし」と読ませている。山形県の食文化に「水まま」、また、平安時代の文献にも登場しているようです。終戦後、冷蔵庫のない時代、『暑さにより腐敗の兆しが見えたご飯であっても、表層を洗い流すことで臭みを取り除き、安全に食べることができる経済的かつ合理的な料理である』とも。現在では、むしろ洒落た料理の扱いとなっているようですがその両面を意識して鑑賞して欲しい句です。
・何するも手足寂しき甚平かな
…甚平は、字面通りに「じんべい」と読まず「じんべ」と読みましょう。
・いつか行く所のやうなるお花畑
…お花畑は、俳句では「おはなばた」と読む。高山植物が一斉に花をつけることから夏の季語。
・花布の蔵書の湿り夜の秋…花布は、「はなぎれ」。
「花布」は、ハードカバーの本の表紙の天地(上下)にほんのチラッと見える布のこと(下の写真参照)。
頭に花布と置いていますが主体はそれではなく蔵書の湿りの句。梅雨時の雰囲気で季語の夜の秋では合わないでしょう。「夜の秋」は、夜になってからちょっと秋の気配を感じたという夏の季語。この季語を活かすのならただ単にちらっと目に付いた花布との取り合せだけで十分。それが俳句です。
・軸先の呉須の絵模様夏座敷
…呉須は、「ごす」。焼物の染付に用いる、コバルト化合物を含む鉱物の名。また呉須焼の略称。季語の夏座敷と軸とは同義語です。俳句の季語の「夏座敷」、床の間には夏の軸が掛けられています。
・焼明礬母の教えの茄子び漬
…焼明礬は、「やきみょうばん」。茄子び漬」の「び」は不要でしょう。
・すがすがし夏越の茅の輪くぐり居る
…夏越は、「なごし」。
・真剣に崩す削氷匙の先
…削氷は「けずりひ」。こちらはかき氷をこぼさぬように匙を使って云うところ。
清少納言が《枕草子》の中で、〈削り氷にあまづら(甘葛)入れて,あたらしき金鋺(かなまり)に入れたる〉と書いていますがこれは氷を刃物で削っているところでしょう。金鋺は金属製の椀のこと。
・青年の指の冷たしやはんざきに…句意はよくわかりませんが、このはんざきは、「半割・半裂」。オオサンショウウオの別称で夏の季語のことでしょう。