目次
◎1. 01月定例句会報
◎2. 生還の記抄
◎3. 俳句の語句の読み方
入選句
イーゼルに未完の油彩年を越す シミ
巾着に干支の根付や初稽古 シミ
一羽来て二羽の加わり初雀 オミ
天に月地は寒に入り人恋し コフ
落ち様に重みの有りぬ冬椿 ヤミ
早梅や太鼓櫓の出しっ幣 アノ
カレンダー一枚めくり春隣 チシ
楪や無用の用のありにけり オミ
雪けむり上げて転び来スキーヤー チシ 原 句 雪けむり上げてスキーヤー転びくる
ポケットに残る半券年新た アヒ
雪空や暮色深める越の海 シケ
「一隅を照らす」を銘に初日記 アノ
雪降れば幼児となりぬ雪降れば ナミ
※入院中は病床での作句に拠って気持ちが救われました シケ
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難病と身に入む声を聞きをれり
そぞろ寒死をと俯瞰す眼あり
存へよカーテン分けて冷ゆるなり
病床を輾輾釣瓶落しかな
病床の柵を握りて夜の長し
寝返りの音も潜める夜長かな
看護師の夜の小走りも肌寒し
トイレへの試歩許されぬ秋の雨
声かかる部長回診秋夕日
点滴を次へと変へて秋の昼
秋没日点滴ばかり見遣りつつ
日日続く子の来院も秋の行く
看護師の手薄の予感秋高し
望の月ナースの肩を借りてゆく
下冷や遠見の町の影深く
同病の問はねど語る秋の夜
スマートフォン燈下親しく薬情報
絶食を解かるる知らせ菊日和
病身の咀嚼三十竹の春
滴滴と酢橘を搾る患者食
秋ともし病院食のアンケート
退院へ手櫛を入れる秋の風
眉太く描いて退院秋の日矢
還り来て礼を仏へ秋日和
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・山眠る上に源氏と平家星
…源氏と平家星は「げんじとへいけぼし」。源氏星は、オリオン座で白く輝くリゲル。赤色の明るいペテルギウスを平家星と見立てて呼ぶ称。
・被布を着て刀自と言はるる人の来る
…被布は、「ひふ」。着物の上にはおる衣服。
…刀自は、「とじ」。いろいろの意を含めて使われる言葉です。この句では、「刀自さんが見えた」などと周りで声がしたのでしょう。
・半蔀に移る夕日や紅葉冷
…半蔀は、「はじとみ」。
半蔀とは、平安時代から住宅や社寺建築において使われた、格子を取り付けた板戸。上部に蝶番をつけ、外または内側に水平に釣り上げて開ける。しとみど。
源氏物語を素材にした能では…、雲林院の僧が、立花供養で夕顔の花を捧げる女の言葉により五条辺りへ行くと、半蔀より夕顔の上の霊が現れ、源氏の君との昔を語って舞う。「夕顔」と同工異曲。
掲句、半蔀が活きて使われていないようです。
・濁り酒宿のどこかにつくも神
…つくも神は「付喪神」。器物が百年を経過するとそこに宿るという精霊。宿の主人と濁り酒酌みながら築、何十年かな?家具調度もかなりり古いな、と打ち眺めている所でしょう。
・朝日射す信長塀や秋気澄む
…信長塀は、「のぶながべい」。熱田神宮にある築地塀のこと。織田信長が桶狭間出陣に際し願文を奏し、大勝。そのお礼として奉納された塀。
・穭田の真中駅舎の日暮来る
…穭田は、「ひつじだ」。秋の季語。
・大空は雲のまほろば龍馬の忌
…まほろばは、すぐれてよいところ。古事記に〈倭は国のまほろばたたなづく青垣山ごもれる倭しうるはし〉があり、それに触発された句のようです。桂浜の龍馬像か。
・末寺に小春日和の和讃かな
…末寺は、「まつじ」。
「まつでら」と読ませたいのでしょうが…。「まつじ」と読めるような表現をするように。
…和讃は、「わさん」。七五調風の和語による「讃」。 梵語を漢文に翻訳した漢讃に対していう。