▲2020・05月号

目次

 

◎1. 05月定例句会報(誌上句会)

◎2. 句楽吟行 行きずりの桜・遅桜(誌上吟行)

◎3. 俳句の語句の読み方

 

 

◎1.定例句会報 2020・5月(誌上句会)

入選句

 

浮かび来る朱塗の鳥居朝霞         イア 

図書館の臨時休館春惜しむ         チシ

すれ違ふ人皆怪し春野道          チシ

花冷や体操すれば骨の鳴る         チシ

蜂の巣や段取り狂う跣足袋         コフ   原句 蜂の巣に段取り狂う跣足袋

春疾風画鋲の残る掲示板          アノ

休園の桜蘂降る幼稚園           アノ

描き終えて目刺を酒肴とす         アノ   原句 描き終えし目刺を酒の肴とし

桜蘂降るみちのくの傷跡へ         アヒ   原句 桜蘂降るみちのくの傷跡に

垣間見る黄泉平坂桜散る          ミノ

巣ごもりのうさ晴しせむ柏餅        ミノ

SLの峠へ汽笛風光る           フチ   原句 SLや峠を汽笛風光る

落花せる中を乙女の駆けて来る       フチ

空の青野にも置きたり犬ふぐり       フチ

同窓会お取り止めとや亀の鳴く       イケ

早暁のスーパーへ荷の届く音        イケ   原句  早暁のスーパに荷の届く音

カタクリの初恋と言う花言葉        オミ

ついて来る沈丁の香の曲るまで       ヒタ   原句  ついて来る沈丁の香や曲るまで

 

  

◎3. 俳句の語句の読みプラス・寸言

 取り上げている句は任意で、特に佳作の句として取り上げいるものではありません。

 

・春一番烏鷺の争ひ嗜まねど

 

 …烏鷺の争ひは「うろのあらそい」。囲碁の異称。

 

 

・触れねども観自在菩薩あたたかし

 

 …観自在菩薩は、「かんじざいぼさつ」。『広辞苑』の観世音菩薩のところに《観自在菩薩とも訳す》 とあり、この句ではその観自在菩薩という字音を活かして遣われています。
 インド仏教でアヴァローキテーシュヴァラ菩薩のことを鳩摩羅什が観世音菩薩と訳し、後に『西遊記』で知られる玄奘三蔵がこの旅を経て新しく観自在菩薩と訳し、前者を旧訳、後者を新訳と言います。「摩訶般若波羅蜜多心経」の冒頭に「観自在菩薩」と出て来ます。《一般的には「観音」というときには「大悲」を強調し、「観自在」というときには「智慧」を強調して訳出した》のだと聞きます。大悲とは、『広辞苑』には、《衆生を苦しみから救い出す仏。菩薩の大きな慈悲の心》。観世音菩薩を安置してあるところを「大悲閣」と言いますがこれは、奈良の長谷寺に見る通りです。

 

 

・鳴き響む鶯笛の土産売り

 

 …響むは、「とよむ」。鶯は春の季語ですが鶯笛は玩具ですから季語にはならないでしょう。

 

 

・磯竈温み弾むや海女の声

 

 …磯竈は、「いそかまど」。これは春の季語です。

 

 

・茎立の花壇小さき水溜

 

 …茎立は、「くくだち」。これも春の季語。

 

 

・敷石のわずかな間

 

 …間は、「あわい」。

 

 

・まんさくや立杭焼の登り窯

 

 …立杭焼は、「たちくいやき」。丹波立杭焼(たんばたちくいやき)は兵庫県丹波篠山市今田地区付近で焼かれる陶器。

 

 

・まんさくの宝登山神社へ着きにけり

 

 …宝登山神社は、「ほとさんじんじゃ」秩父長瀞にある宝登山を御神体とする神社。ロープウェイで行ける奥宮周辺ではまんさくを楽しめる。

 

 

・初仕事御利益あれと勝守

 

 …勝守は、「かちまもり」。かつて江戸幕府に厚く崇敬されて「江戸総鎮守」として称えられていた神田明神でいただけるお守り。場所柄からサラリーマンの圧倒的に支持を得ている神社。

 余談ですが、平将門命が祀られていることから氏子たちは決して将門調伏を図っていたという成田山には決して行かないという話が残っています。

 

 

・鴫立庵虎御前像や寒椿

 

 …鴫立庵は、「しぎたつあん」。神奈川県大磯町にある俳諧道場。名称は西行の歌の「こころなき 身にもあはれは 知られけり 鴫立沢の 秋の夕暮」(『新古今和歌集』)による。
 …虎御前は、「とらごぜん」。大磯の虎と言われた遊女。