▲2020・08月号

目次

 

◎1. 07月定例句会報

◎2. 句楽吟行 中川界隈独り吟行(誌上吟行)

◎3. 俳句の語句の読み方

◎1.定例句会報 2020・7月26日

入選句

 

此の夏の思う此の世の此の荷物       ナミ

なびかせて黄色のリボン夏帽子       ミノ

十薬の繁る隣家の境界線          ナミ

来るという友を一日水羊羹         コフ

母を知る人へ挨拶橋涼み          シミ

 ●添削後 母を知る人と行合う橋涼み

キャリーバック押して散歩や梅雨夕焼    イケ

 ●添削後 道ずれはキャリバックや梅雨夕焼

炎天やまなうらにあるゴッホの黄      アヒ

 ●添削後 炎天のまなうらにあるゴッホの黄 

寺門入る黄檗宗や花樗           イア

虫干や着ることもなき黄八丈        チシ

 ●添削後 虫干や着ることなく黄八丈

夾竹桃黒板塀の勝手口           アヒ

影映す夾竹桃や鎮魂碑           ナミ

大泣きの子の手をつなぐ夾竹桃       フチ

 

 ※添削は発想の転換を願っているものですから

  どうしてそうなるのかその意図を考えてください

 

◎2.  句楽吟行 中川界隈独り吟行

          

手繰り寄せ川面彩る天の川         コフ

川向い在りし人追う白絣

跳ね上がる魚に足止む夕涼み

界隈と言う呼び名が好き釣忍

夏来たる千住へ一里宿場町

          

 

見渡せば遠出せずとも立葵         オミ

釣人の釣ってリリース梅雨晴間

汗拭う目標までの万歩計

夏燕昨夜の雨水の満たす川

悶悶と川辺歩くや夏の雲

 

         

夏の灯の点る欄干見て家路         チシ

夏草や向う岸から犬吠える

電車過ぐあれは上りか草いきれ

道すがら寄りし氏神涼しかり

振向けばスカイツリーも梅雨最中

          

 

黒南風やここは新宿一里塚         イケ

向う岸友の住居や美央柳

鰻重や橋のたもとの長のれん

バスを待つ列のむこうの日蔭かな

爺の手に跳ねしくちなわ田草とり

         

 

マンションの千の灯映り夏の川       シミ

五器それぞれ輝きあえる大西日

いかずちや全速力で走れども

コーヒーを飲み切らぬ間の大夕立

         

 

川渡り歯医者にかよう梅雨の空       ミノ

水かさの増したる川の梅雨さなか

川波のたつ風の吹く荒梅雨

梅雨晴間パトカー静かに走り来る

水道管の橋の失せたり中川の夏

         

 

大型の犬に曳かれて梅雨の土手       アヒ

どくだみの花に自粛のなかりけり

氾濫の昔ありけり青芒

橋脚の踏んばつてゐる梅雨出水

曲流に梅雨三日月の低く在り

          

 

嵩上げの白き法面葦雀           アノ

荒梅雨の流れに速しドラム缶

(中川土手の遊歩道)

白墨のケンケンパーや梅雨晴間

土手下のラジオ体操蚊遣焚く

汗拭う県境の橋引き返し

         

 

尼寺の碑文薄るる溽暑かな        フチ

青芒古刹巡りは長門から

花南天庵主掃きゐる石畳

夏蝶や草餅寺に影落す

白靴を気ままに中川歩きけり

         

 

新旧河川分れる土手の緑濃し       イア

切断されし水道鉄管梅雨の川

梅雨の泥航路矢印浚渫船

梅雨最中護岸耐震工事中

渡し場跡帝釈天道の碑立葵

          

 

川風の雨の加はる濁り鮒         シケ

語り行く翁と児あり夕焼空

夏の雨岸へ偏よる舫ひ船

夏焼や川面に鯉のひるがへる

川風やひたともつれて夏の蝶

          

 

夕焼やここが中川七曲          トンボ

炎天やフノリ干し場のありし土地

川風に押されて行けば立葵

梅雨塗れ香取神社も恵明寺も

梅雨の中アリオ行きなるシャトルバス

 

◎3. 俳句の語句の読みプラス・寸言

寸言を呈したくなる句が多くなってしまいました。

 

・薫る風白玉楼は知らねども

 

…白玉楼は、「はくぎょくろう」。文人が死後に行くという天上の楼閣。

 

 

・柏餅有間皇子のことなども

 

…有間皇子は、「ありまのみこ」。孝徳天皇の皇子。斉明天皇の時、謀反を企てたという名目で紀伊の藤白坂で処刑。六義園の藤代峠はこれを当てていて皇子の詠んだ歌が万葉集『磐代の浜松が枝を引き結び真幸くあらばまた還り見む』『家にあれば笥に盛る飯を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る』。

罪晴て還り見む、ことなく処刑された。

 

 

・汗手貫若年僧のしてをれり

 

…汗手貫は、「あせてぬき」。汗で腕がべとつかないように手首にはめるもので今では珍しい。僧侶が使っている。

 

 

・毛の国の古墳を渡る青嵐

 

…毛の国は、「けのくに」。上野,下野両国の古称。特に群馬県内では、東日本最大の太田天神山古墳を始めとして、総数では約一万三千基もの古墳が築かれていた。

 

 

・大南風振り幅大き象の鼻

 

…大南風は、「おおみなみ」。夏の季節風。

 

・卵塔を離れぬままの黒揚羽

 

…卵塔は、「らんとう」。台座上に卵形の塔身をのせた墓石。禅僧の墓石に多く用いられる。無縫塔ともいう。

 

 

・早苗饗や嫁と姑うす化粧

 

…早苗饗は、「さなぶり」。

 

 

・芍薬や語り継がるる王昭君

 

…王昭君は、「おうしょうくん」。前漢の元帝の宮女。中国王朝の政策の犠牲となった女性の代表として文学・絵画の題材となった。

 

 

・若楓尼さまの説く倶会一処

 

…倶会一処は、「くえいっしょ」。広辞苑には、「弥陀の浄土に往生して、浄土の人々とともに一処に会同すること」とあります。この句リズムを活かし〈若楓尼さま説ける倶会一処〉

 

 

・鶴頸の青磁の花器の涼しさよ

 

…鶴頸の青磁の花器は、「つるくびのせいじのかき」。徳利・花瓶など、この句は、口のあたりが鶴の首のように細長い花器。青磁釉を施した透明感のある青緑色の磁器。博物館などで見るものは見ごたえ充分。「涼しさよ」というといかにもそれらしく軽い。〈鶴頸の青磁の花器や青葉闇〉と言わぬ表現を身に付けよう。

 

 

・金継ぎの壺の高値や夜店の灯

 

…金継ぎは、「きんつぎ」。割れや欠け、ヒビなどの陶磁器の破損部分を漆によって接着し、金などの金属粉で装飾して仕上げる修復技法。金繕いとも言う。遺っているものには、来歴がある。今では金継用のセットが売られていて誰でもが造れる。夜店に多く並ぶものは、我楽多で高値は店主の愛嬌。または、作者の思い入れか。夜店の景であれば、〈金継の皿や壺にも夜店の灯〉であろう。